撮影:藤田由香

2023.11.16

わたしと漢方

「アクティブレスト」という言葉を夫婦で大切にして休日は自然を感じる山や海で過ごすことを心がける

谷尻直子(たにじり なおこ) 料理家

「現代の日本の母の料理」をテーマに、東京都渋谷区で完全予約制の無添加レストラン「HITOTEMA(ヒトテマ)」を主宰する料理家の谷尻直子さん。植栽があり、心地よい風が抜ける「HITOTEMA」のデザインは夫で建築家の谷尻誠さんによるもの。元々はファッション業界でスタイリストとして活躍していた谷尻直子さんですが、料理家に転身し、日本の調味料をベースにした和食料理を提案しています。「夫婦でアクティブレストという言葉を大切にしています。休日を寝て過ごすのではなくて、自然を感じる休日を過ごすようにしています」と、語ります。料理家、そして1児の母として日々活動している谷尻直子さんに健康への向き合い方や日々大切にしていることについてお話を伺いました。

幼少期の経験を活かした考え方

幼少のころから身体が弱く病気がちだったので、家で過ごすことが好きでした。やっぱり家で遊ぶことは限られているので、「母がいる場所→台所→台所で遊べるもの→お菓子づくり」と、お菓子をつくることが趣味になりました。お菓子をつくると家族が喜んでくれたので、お菓子から料理へと関心が広がっていきました。食に関心を抱くようになってから、徐々に自分の身体が強くなっていく変化を実感して成長しました。

私が育ったのは昔ながらの昭和の家庭だったので、熱が出たら母が葛湯や卵酒をつくってくれたり、梅のドリンクやリンゴをガーゼで搾ってジュースを出してくれたりしました。今でもその記憶が強く残っていて、「HITOTEMA」では「現代の料理」をコンセプトにしてはいますが、みんなあまり飲んだことがないだろうなと思いながら葛湯や柚子を入れた柚子葛湯、または蜂蜜大根などを提供しています。この小さい空間でも、母が私にしてくれたことを同じように愛を持ってお客さまに伝えていけたらいいなと思っています。

自分を俯瞰する時間が必須

20年ほどヨガを続けていて、メンタルケアとして取り入れています。ヨガはフィジカルとメンタルの両方に効くものなので本当におすすめです。それ以外ではマインドフルネスを生活の中に取り入れています。マインドフルネスといっても自分を俯瞰する、自分を見つめる時間をつくるメディテーション(瞑想)のようなものです。ヨガの先生の中には良い声がけをしてくれる方もいて、ヨガの最後に「今週あった嫌なことは全部地面に吸い取って貰いましょう。太陽から降り注ぐポジティブなエネルギーを全身で受け取りましょう。」と言葉をかけてくれるんです。これも誘導瞑想と呼ばれるものの一つで、他愛のないことのようですが聴覚しか使わず五感のうちの4つをシャットダウン出来るせいかメンタルキープにすごく効いているようです。その他、ポッドキャストの瞑想も移動中などによく利用します。

ふとSNSを開いてしまうことがクセになっていた時期もあったのですが、空いた時間を自分のために使わずに、人の情報を処理することに使っていることにあるとき気がつき、意識的に制限するようにしています。インスタグラムも誰でもフォローするわけではなく、良いエネルギーを与えてくれるアカウントだけをフォローするようにしています。ある意味、自分の身体をつま先から頭のてっぺんまで、順にスキャンするような時間を持つことが、自分のメンタルをキープする上で大切なことだと思っています。自分をスキャンする時間を持つこと、すぐに西洋医学に飛びつかずに生活において一番手前にある毎日の食から、その後東洋医学、西洋医学、と順を追って取り入れること、そして自分にとってマイナスなものはシャットダウンすることを意識しているせいか、メンタル面も健康面も穏やかです。

1番の芯は「家族」

ワーク・ライフ・バランスは1週間や月単位でなんとなく意識するようにしています。私は22歳から24歳までスタイリストアシスタントとして修行し、その後24歳でスタイリストとして独立して、26歳のときにファッションブランドを立ち上げました。26歳から今までずっとフリーランスで働いているので、少し歩みを止めてしまうと不安や違和感が感じるのでやっぱりずっと仕事はしていたいなと思います。

しかし、1番の芯であり、大切なものだと思っているのは家族なので、仕事に振りすぎないように仕事量を調節していますね。私は8年前に子供を授かりましたが、いまだに毎日子供に仕事の邪魔をされています(笑)。だけどその邪魔を俯瞰してみると、自分にとって良い影響を与えてくれていて、邪魔されるからプライペートに自分の身を置くことができるのだと思います。ワークとライフが分かれていても、息子がプライベートに引っ張り戻してくれているわけです。

仕事が過密で多忙な時期に、重い責務がずっと自分に押しかかっているような感覚で、エチケット袋がベッド脇に必要なくらい頭痛に悩まされました。激しい頭痛に悩まされたときも、ストレスをストレスだと認知できていなくて、知らず知らずのうちに毎日仕事のプレッシャーと闘っていたのだと後から気づきました。お店に立てないこともあってそのときにメンタルケアの大切さを改めて感じましたね。なので、誘導瞑想もそうですが、何かと自分を正しい位置に引っ張ってもらうことが多いですし、そういったことに助けられているように思います。

季節に合わせた献立がメイン

料理家として薬膳や二十四節気の考え方を大切にしています。夏だったら熱を排出しやすい献立、秋は乾燥対策、冬は身体の芯から温める料理をいつも考えて、それに当てはまる食材を書き出すことからスタートしています。熱を排出する、あるいは身体を温めるというのは漢方の考え方とも通ずるところがありますね。体調が悪い時は生姜を取り入れ、それでも体調が変わらない場合は漢方薬を使うというように、西洋のお薬より東洋のお薬から始めることが私の1番好きなスタイルです。私自身、漢方は生活に取り入れています。風邪でなんとなく喉に違和感があるときは葛根湯などを飲みますし、葛根湯は常備していて旅に出るときも持ち歩いています。

最近のストレス発散方法は「アクティブレスト」

夫の食事にも気を遣っていて、「これから先に食べなさい」「これを食べなさい」と口うるさく言っています(笑)。夫が建築事務所に「社食堂」という、従業員がワンコインで食事することができ、一般の方も来店可能の定食屋を作りました。そのおかげで働きながら良い食事ができるという労働環境自体が変わったので、今は夫の食事に安心しています。40代後半からは病気が気になる年齢ですが、たくさんの部下を率いる年代なので、夫を含めその年代の方は体調管理や健康管理をしっかりしないと、体調を崩した際には自分だけでなく周囲の人々も困ることになってしまいます。

責任感によるストレスも多くなるので、そのストレスの抜き方も考える必要があります。夫と私の共通の趣味はスノーボードで、夏にはサーフィンを始めました。海水に浸かることでデトックス感覚が体感できますし、大自然の中の雪山では空気が自分を浄化してくれるような感覚があるんですよね。こうした感覚がストレスを抜くことにつながっていると思います。夫婦で「アクティブレスト」という言葉を大切にしていて、休日を寝て過ごすのではなくて、自然を感じる休日を過ごすようにしています。身体にもメンタルにも効くため次の月曜日から金曜日まで頑張れますし、主人を横で見ていても、年々若々しくなっているような気がするので、これもアクティブレストのおかげかなと思っています。

谷尻直子/たにじりなおこ

ファッションのスタイリストを経て2014年より「現代の日本の母の料理」をコンセプトとしたレストラン「HITOTEMA」を主宰。6年間のベジタリアン経験や8人大家族で生活してきた経験を生かしてお酒に合いつつカラダの事を考えた食の提案を行う。自然食品、スパイス、薬膳を積極的に取り入れ、レシピ開発や撮影ディレクションを主に活動する。東京以外に京都や岡山のホテルの朝食メニューの構築などで活躍。発酵食品スペシャリスト、野菜ソムリエ、薬膳マイスター、アロマテラピー検定一級、ケンブリッジイングリッシュテストPET取得。2024年春より薬膳ディナーを始動予定。
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