撮影:白木世志一 取材・文:本間裕子

2023.02.07

わたしと漢方

料理をする際に素材を観察するように自分の体や心の変化にも対峙して、いま本当に必要なものを見極めるようにしています。

細川亜衣 料理家

大学を卒業後、イタリア各地を旅しながら料理を学び、現在は熊本を拠点に活動を続ける料理家の細川亜衣さんは、数々の著作や料理教室で素材とまっすぐに向き合ったレシピを発信しています。最近では「エプロンとレシピ」というオンラインマガジンも主宰し、さまざまなテーマで言葉を紡ぎ、季節の色のみならず、味や香りまでも伝わるような写真や文章でファンを魅了しています。最近、漢方に親しみ始めたばかりだという細川さんに、ご自身の体との向き合い方や料理を通じて伝えたいことなどお話を伺いました。

定期的なテニスで体力をつける

昔から体を動かすことが好きでした。特に健康のためというわけではないのですが、いまも週に3回テニススクールに通っています。ヨガやピラティスのような自分の内面と向き合うようなものよりも、闘争心があり過ぎるのか、思いっきり体を動かすようなスポーツが性に合っているんです(笑)。自分のペースで楽しめる水泳に夢中になったときもありましたが、いまは人とコミュニケーションがあるテニスがしっくりきますね。もう始めて数年が経ちますが、病院に通う回数が明らかに減り、体力がついたというのを実感しています。あと、この間、鏡に映るスポーツウェア姿をふと見たら、似合わなかった丸首のTシャツが、似合うと思えるようになっていたんですよね。知らず知らずのうちに、筋肉もついて、体も変化していたんだと嬉しくなりました。

不調をしっかり観察し、かかりつけ医に相談

熊本は水や食材にも恵まれ豊かな土地だと思いますが、夏の湿度の高さだけはいまだに苦手で体調を崩してしまうことも。そんなときには、あまり自分で抱え込まず、かかりつけのお医者さんに相談するようにしています。いわゆる西洋医療の先生なのですが、対話に驚くほどの時間を割き、病名がつかないような不調にも寄り添ってくださるんです。身近に頼れるプロフェッショナルがいるから、日々起こる体調の変化も一喜一憂するのではなく、じっくり観察して先生に報告。私は料理をする時も素材とひたすら対峙するようにしているのですが、その感覚に近いかもしれません。同じ野菜でも一つひとつ形や味わいが違うように、人間の体も一人ひとり違うものですよね。

漢方を通じ自分への理解を深めたい

先生には「ギリギリ飲まなくてもいいくらいのレベルなら、なるべく薬は処方しないでください」とお願いしているのですが、ここ最近は漢方を提案していただき、服用しています。湿度で体調を崩しやすい体質なので五苓散と、最近はお腹のハリが気になるので潤腸湯も服用しています。それから、いつも全力で動いている反動か、時折、食欲もなくなる時があります。そんな時には人参養栄湯、最近 さらにひどくなるお腹の張りには大建中湯を服用しています。それまで漢方には「長く服用する必要がある」ということから、少し苦手意識を持っていたのですが、自分の生まれ持った体質や、季節や年齢とともに変化する体を把握するいいきっかけになればよいなといまは楽しみな気持ちです。

そしてもう一つ、私の体調管理で欠かせないのが、定期的に通う近くの整体です。料理家という仕事は立っている時間が長く、家のキッチンの床が固い石ということもあり、どうしても腰に負担がかかりがち。今まで海外も含め数多くのマッサージや整体を受けましたが、熊本の先生がピカイチ。結果的ではありますが、テニス、病院の先生、整体がいまの私の体を支えてくれているなと感謝しています。

いま体が欲しているものを摂り入れる

日々の生活の中では、いつも食べたいものをシンプルな欲求に忠実に料理しています。熊本の素材はバリエーション豊かで、味も香り本当に素晴らしいので、自由な発想で料理ができることが喜び。採れたてのものを日常的にいただけることは心をうるおしてくれますし、料理家としても刺激になっています。

食事は朝と夜の一日2回を心がけています。私は基本的にお腹が空くことがほとんどなく、長いこと空腹感を感じない体質に悩んでいます。ただ、全く食べないでいると、倒れてしまいますし、食べ物や料理には人一倍興味があるので、朝夜の二食を大切に考えて暮らしています。料理の仕事をしていると、味見をしたり、食べ物の匂いを嗅いだりと、常に食べることから離れられません。ですから、なるべくお腹のスペースをあけ、味に対して敏感でいられるように気持ちをととのえます。その分、夜は好きなものを好きなだけ食べます。消化や体重のことを考えるとからだには一番よくないのかもしれませんが、ストレスなく食べられる唯一の時間なので、気にしません。

料理を通じて何物にも変え難い幸福感を得ている

私は、ただ食べることや料理が好きで、20代、30代は自転車を漕いでいる時も、プールで泳いでいる時もずっと料理のことばかりを考えていたように思います。でも最近は、私は料理に好かれていると感じる瞬間が増えてきました。食材からのひらめきだったり、料理側から引き寄せられるような感じで既成概念にとらわれない料理が生まれることがあるんです。決して繊細な料理が作れるとかいうわけではないのですが、“食材がもつ可能性を信じて絶対に美味しいものを作る”という信念を持ち続けたことが料理家としての体幹を鍛えてくれたのではないかと思っています。

レシピは料理家の考えを伝える方法ですが、素材の観察の仕方や食べ方の提案はもちろん、それぞれのご家庭で育っていて欲しいという想いでいつも考えています。50歳を迎えて、今後体は衰えていくのだろうと想像できるようになってきましたが、料理を通じていろいろな方とのかかわりが増え、何物にも変え難い幸福感は増しているので、私も料理を通じて最大限の喜びを伝えたい。そのためにも自分の内外に起こる変化を察知し、心身を健やかな状態に整えて、料理も生き方も正直でありたいと思っています。

細川亜衣/ほそかわあい

料理家。熊本にて自然に囲まれて暮らしながら、料理をすること、食べることと向き合う。2023年よりtaishoji ディレクターとして、工芸、服飾、料理、茶など様々な分野に関わる企画を行なってゆく。毎日の気づきや、大切にしたいレシピを綴った”grembiuli e ricette エプロンとレシピ”を毎月更新中。
https://www.taishoji.com/
https://grembiuli-ricette.com
Instagram:https://www.instagram.com/hosokawaai/

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