撮影:石川奈都子  取材・文:郡 麻江

2021.06.04

わたしと漢方

漢方薬も食事同様、身体に取り入れる大切なもの。自分の体質や症状に合ったもので、体を整えていきたいですね。

山上公実 「キッチンみのり」主宰・料理家

【後編】実家が京都・三条会商店街で鮮魚・乾物店を営む料理家の山上公実さんは、飲食店で勤務していた頃から、調理だけでなくレシピ開発などにも携わってきました。母から習った乾物や魚を使った家庭料理をアレンジしたアイデアレシピを教えてほしいという友人のリクエストがきっかけとなり、現在、住まいである京町屋でワークショップや料理教室を開催しています。「日々のご飯を美味しく楽しく健康的に」がモットー。旬の食材や乾物を使った料理を中心に、京都のおばんざいをはじめ、自身が学んだ薬膳の知恵を取り入れた作りやすい家庭料理を提案する山上さんですが、漢方薬と出会ってから、さらに体に取り入れるものの大切さを深く感じるようなったそうです。後編では、山上さんと漢方薬との出合いからお話を始めていきましょう。

子宮内膜症の原因の一つ、瘀血(おけつ)の改善をすることで
生理痛や冷えが軽減。体調が復調し、心身ともに元気に。

6〜7年前ぐらいにちょっと体調がおかしくなり、病院に検査に行きましたら、子宮内膜症と診断されたんです。その時から、自分の体に注意深く目を向けるようになりました。生理痛はきつくなるばかりで、鎮痛剤無しでは過ごせなかったのですが、鎮痛剤以外で何かよい方法はないかなと考えていたところ、もともと東洋医学に興味を持っていたので友人の紹介で婦人科系の漢方クリニックに通うことにしました。瘀血がひどく、貧血もあって、体の冷えもありました。先生とよく相談させていただいて、漢方薬を中心に、年齢も考慮して、ピルを処方して頂いて、生理をコントロールすることにしたんです。毎月の生理痛の苦しみがなくなって、精神的にも気持ちが楽になりましたし、早めに漢方医に相談に行って良かったと思っています。漢方薬はさまざまな症状を改善する、生薬の組み合わせによってできた薬ですが、生理痛はもちろん、冷え性、更年期障害などに悩む女性にとっても、心強い味方だと思います。

以前、生理中に出血量が多かったときは、腹痛も激しく、フラフラになるし、普段抱かないような不安な気持ちやマイナスな感情も出てきたりしていました。血の不足や巡りの悪さがこんな状態にもさせているんだと知って、改めて血の状態を良くしておくことが大切だなと思いました。今は生理をコントロールできているので、毎月の悩みもなくなりましたし、精神的にとても楽になりました。冷えも軽減されてきたと思いますし、周りから顔色が明るくなったとよく言われるようになりました。他にも、調子が悪くなった時のために、葛根湯や小青竜湯など、身近な漢方薬は常備しています。

専門家と一般の人を繋いで、漢方や薬膳などの知恵を
暮らしに上手に取り入れる方法を伝えていきたい。

特に女性は、生理のトラブルや悩みって結構あると思うんです。それが毎月あるわけですから、大変なんですよね。さらに、昔と違って食べ物も変わってきているし、ネット社会で夜更かしをしたり、生活習慣も乱れたり、仕事も男性同様、バリバリ働いて、その上、主婦業や子育てもこなすなど、女性も心身にかなり負担がかかっていると思います。教室には働く女性やワーキングマザーの方もこられていますので、日々の食生活から彼女たちを支えられないかな?という思いも強く持っています。食を通して女性の様々な悩みをサポートできるようになりたいと思い、さらに学びを深めるために、スクールに通って「漢方薬膳スタイリスト」と「和学薬膳Ⓡ博士」の資格を取りました。

「漢方薬膳スタイリスト」は、日本漢方養生学協会が認定するもので、薬食同源の大切さを伝え、漢方理論をベースにした現代人に適したレシピを提案するための資格です。自分自身や家族の健康管理のためにはもちろん、料理教室でも薬膳の知恵を伝えるために役立てています。 「和学薬膳Ⓡ博士」は中医学の知識に基づいて、日本人の風土や環境、体質、かかりやすい病気などを分析して組み立てた薬膳を伝えるというものです。特別な食材ではなく、普段スーパーで買える身近な食材を使い、作る人も食べる人も無理なく続けられる、日本人の体と口に合う薬膳料理を伝えていけたらと思います。

いくら体質改善のためにと漢方薬を飲んでも、たとえば体を温めるような漢方薬を飲んで、体を冷やすような食べ物をたくさん摂ったり、クーラーをかけっぱなしにしていては、意味がないですよね。漢方薬は暮らしや食の養生法と合わせていただいた方がより体に良いと思うんです。あと、薬膳の先生がよく言われていたのは、現代人は食べすぎや偏食などが原因で不調を起こしている人が多いので、食べ方を見直して、補うことばかりに意識を向けずに、不要なものを取りすぎないことも大事かなと思います。

料理教室をしていく中で、自分は何ができるか?ということをよく考えますが、漢方医の先生や薬剤師さんと一般の方を繋ぐ架け橋のようなこともできるといいなと思っています。これからも薬膳や漢方の知識を料理教室にもどんどん生かしていきたいと考えています。

気持ちよく作っておいしく食べること。身近な食材を賢く組み合わせて、健やかな「おうちごはん」を提案していきたい。

一番大切なのは、気持ちよく作っておいしく食べること。普段、身近で売っていないような食材を遠くまで買いに行くとか、少しでも食材が足りないと薬膳料理はできないとか、ハードルを上げ過ぎたり、意識を高く持ち過ぎると、たぶん疲れてしまって、継続するのがしんどくなってしまうと思います。私の教室では、身近に手に入る食材の組み合わせで、無理なく取り入れることができる養生ごはんをお教えしていますが、そのうちの1つでも2つでも作ってもらえたらいいですし、特にこれといった不調がなければ、旬の美味しい食材を使って、その季節に合った調理法で料理してもらったらいいと思っています。昔からある食文化の知恵ですね。あとは、たとえば、昨日の夜に食べすぎたなと思ったら、翌朝はお味噌汁とごはんでシンプルにして帳尻を合わせるとか、朝食を少なめにして胃を休めるとか、油っこいものを食べる時は、消化を助ける食材をプラスするとか、バランスよく食べることをちょっと意識すれば、食生活も良い方向に変わっていくと思います。

梅の季節の梅仕事や、味噌仕込みや乾物料理、発酵食など、伝えていきたい大切な日本の食文化はたくさんあります。「おうちでごはん」が見直されている今、美味しくて楽しくて、体にも良い食をたくさんの方に伝えていきたいですね。

山上公実/やまがみひろみ

実家は、京都・三条会商店街で鮮魚・乾物店を営む。家庭料理教室や季節の仕込み事、講習会などを開催する「キッチンみのり」を主宰。おばんざいや薬膳の知恵をプラスした、飽きのこない味わいのレシピを提案している。漢方薬膳スタイリスト(日本漢方養生学協会)、和学薬膳Ⓡ博士(国際薬膳学院 和学薬膳Ⓡ協会)、調理師の資格を持つ

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