STORIES "KAMPO with Me"

わたしと漢方

吉田裕子 宿泊と料理屋「閒居(かんきょ)吉田や」のオーナーシェフ

町なかでクタクタになるまで働いていた日々からの脱却。
自然のリズムに沿うた優しい暮らしで、穏やかに健康をキープしていきます。

撮影:石川奈都子  取材・文:郡 麻江  2020.11.10

東山山麓にある九条山地区。知る人ぞ知る、市内の別天地にある古い屋敷を手に入れ、宿と紹介制のレストランを経営する吉田裕子さん。1300平米もある広大な敷地内に溢れるような緑に囲まれ、鳥の囀りで目を覚まし、庭でハーブや薬草を育て、家族とともに職住一体のゆったりしたライフスタイルを楽しんでいます。オーナーシェフ自身が楽しむ暮らしの空間に、訪れる人もまた、心からくつろいで、癒されていくのでしょう。多忙だった町なかの暮らしから移転し、自然に囲まれた暮らしに変わって、自身の心身の変化を感じているという吉田さん。緑の庭を眺めるダイニングでお話を伺いました。

いつも真ん中にあるのは、幼い頃から食べ慣れた母の味。

 私のレシピは、若い頃から世界を旅してきて、各地で出会った美味しいものの記憶を元に、自分の味として作ってきたものです。でも、私の真ん中にあるものは、やはり幼い頃から食べ慣れた母が作った料理ですね。京都の、“炊いたん”といった家庭料理など、食べ慣れた味をベースに、いろいろなテイストをプラスしています。

 以前から、飲食だけでなく、レストランと宿泊がついた施設を将来やりたいなと思っていて、物件を探していました。4年ぐらいかけて探して、ここにたどり着くことができました。この家の最初の持ち主は、京都大学がまだ帝大時代に着任された教授で、その方が建てた家なんです。赤穂浪士の四十七士とつながりがあるような由緒ある武家の出の方で、今、二棟、建物があるのですが、一棟をリノベートして自宅とレストランに、もう一棟の日本建築の館を宿として使っています。

 求めていた良い物件に出会って、無事、この地に自分の家を手に入れることができたのが、ちょうど40歳の時でした。
 前の店は20席ぐらいあって、スタッフも雇っていたし、夜の営業時間も長かったので、かなり忙しかったですね。もう週末にはくたくた…みたいな暮らしぶりでしたが、こちらにきてからは、年齢と体と相談して(笑)、もっとゆっくりペースで仕事をすることにしました。
 体力も落ちてくるし、更年期を迎えていろいろ不調も出ていましたし、体に楽なかたちで働きたいなあと思っていて、まず、働き方と生活リズムを変えようと考えました。
 店の席数はぐんと減らして6席にして、ご紹介者のみの完全予約制。週の半分くらい、予約を受け入れています。予約のない日は仕入れやレシピを考えているので、忙しいといえば忙しいですが、暮らしのリズムが規則正しくなったので、以前ほど疲労を感じることはなくなりました。ここでの暮らしが自分の暮らしのリズムを見直す、とても良いきっかけになったと思います。

好きなことを仕事に。そんな暮らしにストレスはほとんどありません(笑)

 職住一体になったので通勤時間もゼロですし、仕事が終わって、すぐにお風呂に入って休むことができるようになったので、とても楽になりましたね。よく職住一体になると切り替えが大変では?と聞かれるのですが、ワークバランスはごく自然にできていると思います。

 特に意識をしているわけでもなく、もう私にとって料理が生活の一部なので、お客様の料理も作れば、家族の分の料理も作るし、お昼とか夜とかも作るし、なんだかもうほんとうに料理自体が生活になっているというか…。自分の生きることがイコール、大好きな料理をすることになってしまっているのかもしれませんね(笑)。

 料理はおまかせのコースのみ。無農薬野菜を中心に、魚と肉をバランスよく組み合わせて、うちで7分搗に精米したご飯を合わせて、7〜8品でお客様の好みを配慮し構成しています。
 若い頃のようにたくさんのものを食べられるわけでもないので、今まで、国内や世界を巡って、インプットされてきたものを、引き出しから大切に出してきて、質の良いものをできるだけ美味しく、多彩に体に取り込んでいきたいと考えています。料理って、とてもクリエイティブだと思うんです。やればやるほど楽しいし、興味が尽きることがありません。まだまだいろいろチャレンジしてみたい料理もあるし、本当に無限大ですね。

20代で脂漏性皮膚炎に。重かった症状が漢方で改善

 若い頃から、基本的に健康体なのですが、20代の頃、頭皮にアレルギー症状が出て、脂漏性皮膚炎という病気になったんです。フケが出て、頭皮がかゆくなるんですが、それがどんどんひどくなってしまって…。
 何軒ものお医者さんに診てもらったのですが、完治する病気ではないと言われて…。原因は免疫異常とも言われていますが、よくわからなくて、もともと花粉症もあったので、さらに過剰反応するようになってしまって。自分が分泌する皮脂でかぶれてしまうんです。かゆみを止めるのは、もう、髪の毛を剃るほかないよと言われたり、この症状がいつまで続くんだろう?と本当に落ち込みました。
 15年ぐらい前でしょうか。友達の紹介で漢方の専門医を紹介してもらったんです。煎じ薬を2週間分処方していただいて、病院からものすごい大きな包みを抱えて帰ってきました(笑)。漢方薬と塗り薬の併用で治療を受けたのですが、すっかりよくなってびっくりしました。
 症状が落ち着いたこともあり、煎じ薬はちょっと用意が大変なので、漢方のエキス剤に変えていただいて、長い間、服用していました。今はローションを塗るだけでコントロールができています。

体に穏やかに働きかけて、負担が少ないのが漢方の魅力

 この経験から漢方ってすごい、生薬ってすごい!と思うようになりました。自然の原料の組み合わせが、自然の一部の自分の体にも効くんだなあと実感しました。それ以来、そんなに大きな病気してないんですけど、今は薬局でも漢方薬が手に入るので、風邪をひいたときは、3種類ぐらい漢方薬を飲み分けています。
 初期の時には葛根湯、鼻にきたなと思ったら小青竜湯、今回はなかなか手強い風邪だなと思ったら麻黄湯を飲んでいます。麻黄湯って、飲んだ時においしいって感じるんですが、あとで聞いたらそれは体に合っているそうですね。
 西洋薬は確かに切れ味が良いのですが、強すぎるのか、体がかえってしんどくなったりするのですが、私は漢方にそういうことは感じません。漢方で治せるものは、できるだけそうしたいと思っています。
 実は、夫が胃腸と気管支が弱いみたいで、ちょっとしたことや体調の変化によって、漢方薬を使い分けているようです。

 漢方は症状の悩みを解決するのはもちろんですが、ベースとして体調を整えてくれるように思います。
 漢方のことを知っているのと知らないのとでは、病気の対策や健康維持について全然違うと思います。

食事は特別なものではなく、日々のもの。だからこそ大切にしたい。

 今は新型コロナの影響でなかなか旅行に行けませんが、大体年に2〜3回、夫婦で海外旅行に行ってリフレッシュしています。ここ数年は、薬膳やビーガンに興味があって、南インドでビーガン料理を食べたり、韓国の尼寺の精進料理を食べたり、台湾では向こうの精進料理の素食(スーシ)を食べたり、食べ物も旅のテーマとして楽しみます。
 スパイスの使い方や油の使い方、同じ素材でも各国で調理法に特徴がありますね。日本の精進料理はあっさりしていますが、台湾だと油を結構使ってコクとボリュームがあったり、お酒にもよくあったり…。それぞれの土地で発見があります。
 これからはいろいろなスパイスやハーブ、良質なオイルを組み合わせて、美味しくて、体に負担にならなくて、体を健やかに整えるような料理を作りたいと思っていて、それが当面の課題です。
薬膳のように養生としての料理ではなく、美味しい食事として、日々のものの中から、体にいいものを見つけて摂ることを意識していきたいですね。

 食事ってやっぱり日々のこと、日々のものなんです。食材はもちろんのこと、お塩だったら天然塩を使うとか、お砂糖も精製してないものを使う、お水はできたら沸かして飲むとか、油もオリーブオイルやゴマ油にするとか、日々、意識を持って食べるものを選び、調理することを大切にしたいですね。
 これからはwithコロナがスタンダードになっていくでしょうから、日々の食事で、本来的な力、自己治癒力を高めていくことが大事だと思います。

 毎日、8時間ぐらいぐっすり寝ています(笑)。規則正しい生活を繰り返しているので、その時間になると自然に眠くなるし、朝も自然に起きられます。テロワールではないけれど、人の体もその土地の風土に自然に沿うようになっているのかもしれませんね。
 夜、ぐっすり寝て、朝はしっかり陽を浴びて起きて、添加物をできるだけ摂らず、野菜や精製されすぎない食材を食べて、体を動かして、また眠る。
 とてもシンプルな日々の暮らしですが、今までの人生の中で今が一番、健やかに穏やかに暮らしているかもしれません。

吉田裕子/よしだゆうこ
1969年、京都市生まれ。 京都市立芸術大学大学院修了後、ジュエリーデザイナー、ケータリング業を経て、2000年、京都御所の近くに「吉田屋料理店」を開店。創意溢れる自然体の料理が人気を呼び、多くの人に愛された。2019年に移転し、宿泊と料理屋「閒居(かんきょ)吉田や」を開く。現在はオーナーシェフとして、自然の中でゆったりと暮らしながら、店と宿でのおもてなしを楽しんでいる。著書に「京都 吉田屋料理店」(主婦と生活社)、「吉田屋とヒント」(BOOKS)がある。

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