2018.07.30

わたしと漢方

季節を感じ、自然の恵みを取り入れる生活が健康にもつながる

前田有紀 フラワーアーティスト

Sudeley代表でフラワーアーティストの前田有紀さんは、「花と緑をもっと身近なものにしたい」という思いから、植物に関するさまざまな活動をしています。かつてはアナウンサーとして忙しい日々を送られていましたが、花との出会いをきっかけに仕事もライフスタイルも大きく変化しました。イギリス留学を経て西洋と東洋それぞれの花と人との関わり方に触れ、今では花を通して四季を意識する毎日を送っています。今回は前田有紀さんに、自然からの恵みを日々の暮らしに取り入れる大切さについてうかがいました。

自然への憧憬と花との出会い

小学生の頃から自然への憧れが強くありましたね。横浜から東京にある小学校まで満員電車で通学して、ずっと都会で生活しているような毎日でしたので、その頃の私は鳥取県にある母の実家へ家族で帰省することを一年中ずっと楽しみにしているような子どもでした。
社会人になってからは、仕事にやり甲斐を感じているのに、どこか満たされないものがありました。都会で暮らしている自分に息苦しさを感じていましたし、その理由が「自然が恋しい」というシンプルなものだと気付いてからは、会社帰りに花を買ったり、休みの日には花に触れたりするようにしていましたが、そのうちにどんどん花にのめり込んでいました。都会の忙しくて慌ただしいサイクルとは違う時間軸を持った花に触れることで癒され、ゆとりや元気をもらっていたのだと思います。気持ちが落ち込んでいる時でも、玄関のドアを開け一輪の花を目にすることで気持ちが和ぎましたね。都会の暮らしのなかで植物や花の力を目の当たりにし、最初はフラワーアレンジメントを習ったり部屋に飾ったりするだけで満足していたのですが、だんだんこれを仕事にしたらすごく楽しそうって思うようになってきて。アナウンサーを辞めて転職なんてありえないって思っていたのに、チャレンジしてみようと。今の仕事を始めたきっかけは、花との出会い、そして植物から元気や癒しをもらったことなんです。

季節を感じる生活が健康にもつながる

季節を感じながら生活することはとても大事ですよね。花自体が季節そのものなので、いつも花を通して四季を感じています。けれど、アナウンサー時代はいわゆる都会型のキャリアウーマンスタイルでしたので、都心にある職場のすぐ近くに住み、午前2時に出社する日もあれば、朝日を見ながら帰宅することもあり、すごく不規則な生活でした。大きな病気をすることはありませんでしたが、いつもなんとなく調子が悪かったり。その頃は四季を感じる余裕などなく、自分の中に季節感がなにもなくて一年中同じような感覚で過ごしていました。
現在は鎌倉で暮らしているので、週末に子どもをおぶって家族で山歩きを楽しんだり、直売所で旬の野菜を買ったりすることで季節を身近に感じています。今は育児があるので、子どもにごはんを食べさせることが最優先で自分の食事はさっと済ましてしまうことが多いのですが、それでも旬の食材を取り入れることは心がけています。旬のものっておいしくて元気が出るし、家族で食べていても、会話が膨らみます。そんなふうに季節のものを取り入れることが健康にもつながればいいなと思います。

イギリスで出会った、植物を薬として取り入れる暮らし

イギリス留学時、中世から残る古城でガーデナーのインターンをしていました。中世の街並みが残る街の教会や修道院には必ずハーブガーデンがあって、その街の人たちが古くから植物を薬として取り入れて暮らしてきたことを目の当たりにしました。人にとって植物や花は身近な存在なんだなと感じましたね。それがきっかけで、帰国してからは日本の草花に興味を持つようになりました。今は、季節ごとの日本の植物を意識して食生活に取り入れるように心がけています。夏ならしょうが、みょうが、しそですね。
また、5月に見頃を迎える花に芍薬がありますが、いろいろ調べてみると、古くから日本人に親しまれてきた植物だということがわかりました。江戸時代にはすでに漢方薬として使われていたそうです。ワークショップの際にそういったストーリーをお話しすると、皆さんの目が輝くというか、花への知識や親しみを深めていることがわかり、私ももっと花に関するさまざまな知識を深めたいと思うようになりますね。
 漢方にはとにかく興味があって、いろいろなことを知りたいなと思っています。薬っていうと難しくて遠い世界のように感じてしまうかもしれませんが、原材料の植物に触れたり、生薬畑の風景を伝えたりするだけで急に身近に感じられたりしますよね。私自身も花の見方が変わってきました。ちなみに私は、少し体調が悪いけれど、病院に行くほどではないという時には葛根湯を飲んでいます。

花をもっと身近に

イギリスから日本に帰り、東京の生花店で2年半ほど修業をしました。かなりハードな毎日でしたが、手に職をつけて花の仕事に一生関わりたいという夢や目標があったので、すごく楽しかった。つらいとかかつての仕事に戻りたいとか思ったことは一度もなく、それは今も変わりません。
今年は花をあしらったファミリーフォトイベントや、花のブランド作り、色々な世界とのコラボレーション企画などを予定しています。花屋の外に、どんどん花を持ち出して、いままで花に触れていなかった人が花に触れるきっかけ作りをしていきたいです。
そう思うようになったのは、かつてはもっと身近なところで自然や花と親しんでいたはずなのに、最近はそういったものから遠のいている人が結構多いなと感じたからです。同世代でも、忙しくて花を飾る余裕がない人が多いですし。イギリスでは、都心で暮らしていても花を飾ることは当たり前で、彼らにとって花はとても身近なものでした。私は、日本でも同じように、花をもっと身近に感じてもらいたいと思っています。東京の街に花があふれ、誰でも当たり前のこととして花に親しみ、花が人々にとってもっと身近になる、そんな未来を思い描いています。そのために花の仕事を続けることはもちろん、いろいろな場でこの思いを発信していきたい。枯れていく様や散っていく過程も含めて花を楽しんでもらったり、いろいろな魅力を伝えていかなくてはと思っています。一生かけてやるぞという使命感に燃えに燃えています(笑)。

前田有紀/まえだゆき

10年間テレビ局に勤務した後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロセスター州の古城で、見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで2年半の修業を積む。「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近にしたい」という思いから、SUDELEYを立ち上げ、イベントやウェディングなどの装花・制作を始め、様々な空間での花のあり方を提案する。

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