STORIES "KAMPO with Me"

わたしと漢方

大宮エリー 作家

連載「大宮エリーの 私、ツムラーになる!!」第2話

撮影:諸井純二 2018.05.16

第2話 「風邪には葛根湯じゃないの?!」

京都滞在のときは、いつも泊めてもらう常宿があるんです。宿といっても友達のひろこさん夫妻のゲストハウス的な隠れ家。古民家に少し手を入れた落ち着く家。おしゃれ。
板の間なんだけれど、アンティークのランプがあったり、たくさんの本箱、雰囲気ある掛け軸。壺。庭にはバラ、椿、藤、季節折々の花が咲き乱れる。
ひろこさんは料理屋をやっている。ゲストハウスではないお店で。だけど、わたし、友達の特権で、滞在中ご家族のご飯にお邪魔させていただいているので、料理のプロの日常ご飯にありつくことができるのだ!
 いつも健康的な手料理をご馳走になる。土鍋ごはん。焼き魚。季節のお野菜。手作りの昆布山椒を炊きたてのご飯に乗っけて。庭でつんだ三つ葉をさっとあげてかき揚げに。これも美味しい。
 あるとき私、ひどい風邪をひいてしまっていた。結構長引いていてしんどい。食卓を囲んでもぐったり。
「あら、エリーちゃん、風邪?」
「うん、なんかね、長引いちゃって。熱はないんだけど、なんかだるいっていうかさ」
「漢方飲めば?」
「え?でももう効かないでしょ」
かなりこじらせちゃっているわけだ。
漢方は早めに飲まないと効かないっしょ。
葛根湯が効くタイミングはもう逃したもの。
ここで、驚くべきことを言われたのです。
「補中益気湯、飲んでみたら?」
「え?」
私は聞き返しました。
「ほちゅうえっきとう?」
「そう、ほちゅうえっきとう」
なんか、しゃっくりみたいな名前だ。
文字に書いてもらうと、葛根湯みたいに
○○湯だ。
いい湯だな、あははん♪
いろんな温泉、ならぬ、いろんな湯があるのかい?!
「葛根湯とどう違うの?」と私が聞いたらば、ひろこさんは
「うちはね、風邪かな?と感じたときは葛根湯。
 体をあたためて治す感じ。で、長引いたりこじれたりのときは 
 もう補中益気湯だね」
へー。風邪の段階で使う忍術が違うことを知る。
そりゃそうだ。風邪、とは総称だもの。いろんな風邪がある。
で、調べてみると、
汗がでてる風邪には、桂枝湯(ケイシトウ)。顔が青白く喉がチクチク、手足の悪寒は麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)。
吐き気など胃腸系の風邪には、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)。喉の痛みながびく、咳、空咳が止まらないとき麦門冬湯(バクモンドウトウ)とある。まだまだこれだけじゃない。
もう忍者の忍法だよ~。不眠が続く風邪、痰がとれない風邪には、竹茹温胆湯(チクジョウンタントウ)小青竜湯(ショウセイリュウトウ)はくしゃみ鼻水に、などなど。
こんなに風邪へのアプローチが多いってどういうことなんだろう?と調べてみた。すると!
漢方の風邪の考え方って、面白い!
「体が免疫低下している状態(内因)に加え、病邪が体の外から侵入すること(外因)によって起こる疾患である」だそうで、外からの原因を除きながらからだの調子も整え、内からの原因にも対処し、治療するんだそう。
外からの原因は、乾燥とか寒さ。だから潤したり温めたりするんだね。
内因ていうのが免疫低下を引き起こす原因で、過労とか睡眠不足とかストレス、冷えだ、乾燥。なるほどー!確かに!
だからか。内因の違いで風邪薬が変わるんだ。で、なんでこんなにバラエティーにあふれてるのかなっていう根本を考えると、すべてね、植物の成分からできている。だから人間のからだっていうのは植物で治せるっていうのがすごい。神様はさ、地球に人間を作って、それと同時に、人間を守るためのあらゆる植物も生やしてくれたんだなあって思うと、なんだかロマンティック。解決方法が、きちんと与えられているだから。いろいろ煎じて飲んだりして薬効を知ってきた先人の発見と努力と経験がいま、漢方薬になってるだなぁ。
ありがたや、ありがたや。
湯治で病を治したりするけど
いろんな湯、「○○湯」で、風邪を治すってのも
なんだかほのぼの楽しいもんだ。
そんなわけで大宮エリー、○○湯の使い分けを勉強して
風邪よどっからでもこい!のツムラーになる!

大宮エリー/おおみやえりー
1975年大阪府出身。東京大学薬学部卒業。作家、演出家、画家など多くの肩書きを持ち、著書には『生きるコント』『思いを伝えるということ』(文春文庫)他多数。2016年、美術館で初の個展『シンシアリー・ユアーズ』(十和田市現代美術館)を開催。現在、週刊誌『サンデー毎日』にて連載を担当している。

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